ボリス・ジョンソン首相がツイッターで中国の春節を祝う その真意とイギリス伝統のリアリズム

ボリス・ジョンソン首相は12日、自身のツイッターで中国の旧正月「春節」を祝う動画付きメッセージを投稿しました。メッセージには英語のほか、大陸中国で使われている簡体字で牛年を祝うメッセージも書かれています。

そして動画では中国人コミュニティーのイギリスにおける各分野での貢献に強い感謝の意を示したほか、なんと「Covid-19パンデミックに打ち克つチャレンジを中国の方々と共有している」とも。コロナ問題、香港問題、人権問題、BBC問題で深刻な対立を抱える中でのこのメッセージに意表を突かれた方も多いのではないでしょうか。


しかし近年のイギリス情勢を紐解けば、ジョンソン首相が中国に対し宥和的であることも理解できます。まず、イギリスはEU離脱後の貿易市場として中国を重要視していること。そのためジョンソン氏はブレグジット以前から中国に非常に友好的で、外相時代のインタビューでは「我々は中国に非常に関心を持っている」「一帯一路を歓迎する」とも述べています。

またイギリスにとって中国は地政学的にそれほど脅威とならない点も大きいでしょう。そのためイギリスは最近まで、中国政府が機密情報の収集に利用する恐れがあるとされる中国系大手通信機器メーカー「ファーウェイ」製の5G通信機器の導入にも積極的でした。キャメロン政権時代には習近平国家主席をバッキンガム宮殿に招待し、経済を中心に今後の協力関係を話し合うなど、両者は蜜月の関係を築いてゆくかのように思われました。

しかしイギリスはNATO(北大西洋条約機構)の加盟国であるため、アメリカを中心とする西側民主主義諸国の要求を無視できません。そのため米中対立が激化した昨年には、トランプ大統領の要求によりファーウェイ製5G通信機器の撤去を決断するに至っています。それでも撤去期間を「7年以内に」としているため、今後の中国の動向、世界情勢を鑑みて撤去を中止することも考えられるでしょう。

[PR]イギリスとはどういう国か。その歴史を図やイラストを交えながらわかりやすく、丁寧に解説した良書。

見え隠れする伝統のリアリズム

ここで思い出されるのが、イギリスはかつてみんなで強いものを叩くこと、強いもの同士をいがみ合わせることで勃興してきたリアリズムの国であるということ。

16世期、時の女王エリザベスは弱小国だったイングランドを守るためにネーデルランドと組んで強国スペインを撃破したし、17世期初頭のスペイン継承戦争ではルイ14世の野心により勢力を強めたフランスを、ハプスブルク帝国、神聖ローマ帝国、プロイセン王国などとともに叩きにかかりました。19世期にはフランスのナポレオンがヨーロッパで力を持つと、今度はオーストリア、スペイン、オスマン帝国、プロイセン王国などといった大国とともに対仏大同盟を結成して封じ込めてしまいました。


そして第二次世界大戦ではヨーロッパに領土的野心を持つナチスドイツに宣戦布告し、世界を全体主義から守ることに繋がりました。結果として戦争となったこれらのケース以外にも、したたかな外交的立ち回りで漁夫の利を得たケースが多くあることは言うまでもありません。

少し穿った見方をすると、今回のジョンソン首相の中国へのメッセージや、中国に対する「柔軟な姿勢」は、EUを離脱したイギリスが、再びかつての外交原則に戻りつつあることの現れなのではないでしょうか。アメリカやEUという強者に対し、イギリスは中国と協力関係を結ぶことによりパワーバランスを調整したい。そしてアメリカと中国を意図的にいがみ合わせることにより両者の力を削ぎ、最終的に漁夫の利を得ようという魂胆も、かつてのイギリスならあり得ることです。

もちろん現代の国際社会はかつての群雄割拠とは違うので、軍事的協力関係は今後も民主主義諸国と結ぶでしょう。人権問題、香港問題などでは引き続き中国への批判を続けるだろうとも思います。しかし経済・貿易のこととなると話は別で、かつての強かなリアリズムに基づく外交戦略のもと、国益を最大化してくることも想定しなければなりません。

「安易な中国嫌悪に走らないでほしい」「バランスを取らなければならない」「イギリスと中国は価値観の違いを乗り越えてやっていける」そう訴える「風見鶏」ジョンソン氏の言葉の裏には、きっとイギリスらしいしたたかな打算があるはずです。

この記事を書いた人

『TRANS JOURNAL』編集者。神奈川県出身。京都外国語大学外国語学部卒。在学中に中国・上海師範大学に留学。卒業後は製紙会社などに勤務。なお、ここでの専門はイギリス。パンと白米があまり好きではなく、2020年にじゃがいもを主食とする生活を目指すも挫折する。