食べると奇妙な夢を見るイギリスのブルーチーズ・スティルトンを食べてみた

現在日英間で進められているEPA交渉で、英国側がチーズの関税に強く拘り交渉が難航しているのではないかとの噂が立っています。

今回のEPA交渉は英国のEU離脱に伴うもの。それまで日本がEUと交わしていた日EU経済連携協定に代わる貿易協定を英国と新たに結ぶことを目的としています。

日EU経済連携協定では、2019年にカマンベールチーズなどのソフト系チーズで低関税輸入枠や関税に関する合意がされているのですが、どうも英側は日本にEUよりも好条件で英国産のチーズを輸入してもらいたいようです。

英トラス国際貿易相は7日、ロンドンでの協議終了後に自身のツイッターで「取引の主要な要素で合意に達した。デジタル、データ、金融サービスで日EU・EPAを大幅に超える野心的な協定だ」と述べ、引き続き8月末の正式合意を目指すことを表明していました。

しかし日本側からは、英側がチーズの関税に強くこだわるようならば合意が遅れるのではないかとの憶測も出ており、雲行きは怪しいのかもしれません。

では英側がそこまで強く拘る英国産チーズとは何なのか。気になったので調べてみたところ、どうやらスティルトンという名産のブルーチーズを推してきているようです。

そもそもスティルトンとは

ブルーチーズとは、アオカビの作用によって熟成を行うヨーロッパ原産のナチュラルチーズのこと。

なかでもスティルトンはイギリスの限られた生産地で厳格な規定のもとに生産されたものだけが名乗れるブランドで、フランスのロックフォール、イタリアのゴルゴンゾーラと並んで世界三大ブルーチーズとされています。

そしてその味はかのエリザベス女王も「スティルトンが無ければ一日が始まらない」としているほど。

今回の貿易交渉における英国の固執は日本からすると「何故チーズ?」と首をかしげたくなるのですが、英国にとってはまさに国の威信がかかったチーズというわけです。

スティルトンが格式の高いチーズであることはご理解いただけたとは思いますが、問題は日本人の舌に合わないのではないかということ。

アオカビで熟成させているという性質上、ブルーチーズは日本では敬遠されがちな存在であることは言うまでもありません。

現地メディアも「日本人はスティルトンなんて食べないのではないか」と皮肉交じりに伝えていて、仮に関税が撤廃されたとしても消費されない可能性すらあります。

日本が外国に、かつて水戸藩主のために作られた納豆を推しているようなものと考えれば分かりやすいかもしれません。

食べると奇妙な夢を見るチーズ

それにこのスティルトン、なんと英国では「食べると奇妙な夢を見るチーズ」と言われていて、脳への何らかの影響が指摘されています。

これは都市伝説などでは決してなく、2005年に実施された英国チーズ委員会(British Cheese Board)の実験では、就寝30分前に20gのスティルトンを食べた被験者200人のうち、男性の75%が「奇妙で鮮明な夢」を、女性の85%が「奇怪な夢」を見たという結果が正式に残されているのです。

それ、明らかに熟成の過程でカビが何かまずい成分を精製してしまっているような・・・(ビタミンB6の仕業との指摘もあり)

関税のためまだ割高なスティルトン

そんなとんでもない噂を耳にすると何故か食指が動くのは私の悪い癖なのですが、大丸のデパ地下で普通に売られていたのでつい買ってしまいました。

値段は110gで855円と、チーズにしてはお高めの設定。日本は現在輸入チーズに30%ほどの関税をかけているので、それもそのはずです。

表面には無数のアオカビが

開封するとこんな感じ。日本ではカットされたものが市販されていることが多いのですが、もとの形は円形で、7キロ前後の重さがあります。そして見ての通り、チーズの中には無数のアオカビが。

匂いもかなり強烈なので、人によっては食べるのをためらってしまうのではないでしょうか。

しかし恐る恐る口に運んでみると、これが意外と美味しいのです。バターのような濃厚な味とえもいえぬ芳醇な風味。そしてややお酒を飲んだかのような感覚にもなりました。

かつてイギリスの作家ジョージオーウェルは、スティルトンを「世界最高のチーズ」と評したようですが、確かに至高ともとれる余韻に浸ることのできる、そんなチーズかもしれません。

ポートワインと合わせて頂こう

ちなみに塩分がやや強めなので、ワインと合わせて頂くといいでしょう。写真のワインはコンビニで買った安物ですが、本場英国ではポートワインと合わせるのがセオリーです。

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ただこのチーズが日本で万人受けするのかと問われると、答えはNOと言わざるを得ません。独特な風味を持つ濃厚なチーズなので、人によっては「エグい」と感じるはずです。

例えチーズと言えど、イギリスのあのどこか捻くれた、多数派の日本人からは理解しがたい変質さに通ずる何かがあるような。

そしてイギリスはこのチーズを国を挙げて推すような国なのだと考えると、その変質的なクセを捉えることができるのではないでしょうか。

※ちなみに残念ながら「奇妙な夢」は見ることはできませんでした。「奇妙な夢」を見たい場合、就寝30分前に食べるといいそうですが、真偽のほどはどうなのでしょう。

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この記事を書いた人

『TRANS JOURNAL』編集者。神奈川県出身。京都外国語大学外国語学部卒。卒業後は製紙会社などに勤務。ここでの専門はイギリス。パンと白米が余り好きでなく、2020年にはじゃがいもを主食とする生活を目指すも挫折する。