知られざる宋城・江西省赣州で千六百年前の城壁を歩く 赣州グルメ小炒魚は絶品でした

案の定初めからホテル探しに苦戦

中国の地方都市には外国人が泊まれないホテルが沢山あるのをご存知だろうか。中国にはホテルが外国人を泊めるには警察に届け出なければならないというルールがある。大都市や観光地のそばでは多くのホテルが届出ているのだが、地方で外国人の需要がない街だと届出をしていないホテルが目立つ。現地のアプリでうっかりそうしたホテルを予約してしまうと、お金を無駄にすることになりかねない。なので僕は中国の地方に泊まる場合、予約する前にフロントで外国人も泊まれるかどうか聞くことにしている。案の定、この日も事前にアプリで検索しておいた駅前のホテルに宿泊を断られた。フロントでパスポートを提示して、「外国人も泊まれますか?」と聞くと、フロントの女の子は目を丸くしてたじろいだ。どうやらパスポートの存在を知らないらしい。どうすればいいのか全く分からないので、他のホテルを探してくれとあっさり宿泊を断られてしまった。

▲赣州で宿泊を断られたOYOホテル

どうやらこの街は、ホテルの従業員がパスポートの存在を知らぬほど外国人とは無縁な場所なようだ。この街で僕が泊まれる場所は果たして見つかるのだろうか。途方に暮れていると、何やら奥に国際青年旅舎と書かれた電光掲示板が見えた。ユースホステルである。つかさずアプリで調べてみると、シングル80元とある。もうここしかない。フロントで外国人も宿泊可能か聞いてみると、あっさりOKだった。ただ、1泊96元だと言われたので、アプリでは80元だったと説明するとそれはアプリ価格だからアプリから予約してくれと言われた。やれやれ、随分こなれた日本人が来たものである。

駅の手荷物預かり所を活用

翌朝、僕はホテルをチェックアウトした。普通なら1つの街に最低2泊はするのだが、赣州なら1泊でも回りきれると判断したからだ。チェックアウトしてしまうと、重いスーツケースをホテルに置いておくことはできない。なので僕は駅の手荷物預かりセンターでスーツケースを預けることにした。

▲中国では駅に手荷物を預けて観光することも可能

中国の駅には大抵「行李寄存处」「存包处」と書かれた窓口がある。ここに荷物を預ければ、ホテルをチェックアウトしても楽々観光することができるので是非試してほしい。値段も非常に安く、この日は大きなスーツケースを1日15元で預けることができた。

千六百年の歴史を誇る城壁へ

赣州市は江西省の南部に位置する地味な都市だが、その人口はなんと850万人にも達する。しかし、中国の市の位置づけは日本のそれとは異なるので注意したい。日本では県の上に市があるが、中国では市の下に県があるのだ。中国における市は、日本における県だといっていいだろう。それに中国の市は面積も広大で、関東地方の面積くらいは余裕であることが多い。

江西省の南部など何もないただのカオスを想像していたが、赣州の街は思いのほか発展していて、綺麗だった。河南省の鄭州などもそうだが、もともと落伍していた場所が人口の多さ故に突如発展してしまうケースが中国では後を絶たない。人口が多ければ、それだけで経済発展の原動力になるのだ。

▲開発が進む江西省赣州市

そして、僕が赣州を訪れた最大の理由は、1,600年以上昔の宋代から残る古城壁を見るためだった。他都市の城壁とは異なり、赣州の城壁は貢水と呼ばれる河岸に沿って連なっていて、その美しさは指折りだといわれている。水辺フェチの僕としては、何としてでも見ておきたい城壁だった。

▲宋代から残る城門「建春門」

▲宋代から残る城壁と貢水の流れ

赣州駅からタクシーで15分ほどで古城壁に到着した。中国のタクシーは日本と比べて格段に安いため、バスに乗るのが面倒なときによく利用する。今回は駅から古城壁まで約6キロ乗って、運賃はたったの18元。日本でバスに乗るより安いではないか。

タクシーを降りると、そこには宋代から残る城門「建春門」が。さっそく登ってみると、眼前には貢水の悠長な景色が広がっていた。中国の大河の水色は茶色いことが多いが、この貢水の水色は比較的青く、それが美しさに一層の磨きをかけている。

▲美しい貢水の二重橋

▲城壁の下は市民の憩いの場

古城壁の上からは、約800年前に造られたといわれる浮桟橋、「古浮橋」を見渡せた。背後の道路橋と二重橋になっていて、その組み合わせがとても美しい。よく晴れた日の日中に来てみるといいだろう。

ここで古浮橋に下りてみよう。周囲には釣りをする人や、何故か城壁に向かってカラオケの練習をする人などが居て、終始ほのぼのとした雰囲気だった。一人の釣り人に釣果を訪ねてみると、今日はぜんぜんだめとのこと。エサはドジョウの一匹がけで、ライギョなどをぶっこみで狙っているそう。例え釣れなくても、800年前の浮桟橋を眺めながら1,600年前の城壁を背景にして釣りができるなんて羨ましい限りだ。

▲800年の歴史を誇る「古浮橋」

桟橋のたもとでは数隻の船が魚の干物を売っていた。欄干には見たことの無い白い大きな魚がたくさん干されている。ちなみに、日本の魚食文化は海水魚が中心だが、中国では淡水魚が中心だ。魚に対する味覚も日本人と中国人では異なるようで、日本人は淡水魚の泥臭さを嫌うのに対し、中国人は海水魚の生臭さを嫌う。

▲干物を売る小舟のお店。魚にはつい反応してしまう

▲こんな水上のお店でもQRコード決済に対応していた

中国の友人が来日したとき、海鮮料理店に連れていったらブリの刺身が生臭いと散々文句を言っていた。ブリのあのアミノ酸のうまみのようなコクを、中国人は「星味」、ようは生臭いと捉えるのである。逆に日本人と中国の魚料理を食べると、泥臭いといって毎度不評である。僕はどちらも大好きだけれど。

▲「安全第一」の抜き字がかわいかった

古浮橋のたもとには「安全第一」と書かれた抜き字の警告が。意味も使い方も全く日本語と同じで、ついつい親近感を覚えてしまう。

赣州グルメを求めて台湾風の旧市街を歩く

お腹がすいてきたので赣州の地場料理を求めて旧市街へ。この赣州という街、実は客家が多く定住しているらしく、ネットでは客家料理が推されていた。しかし客家料理専門店というのはどうも少ないらしく、地元の食堂のメニューに客家料理が混ざっている程度のようだった。赣州料理というくくりもないため、地場料理にありつくこと自体のハードルが高い。いいレストランが見つからず、どうしようかと旧市街をうろうろしていると、なかなか趣のあるアーケード街に出た。

▲赣州の旧市街の街並み

▲台湾のような雰囲気のアーケード

この感じ、何となく台湾を起想してしまうのは僕だけだろうか。台湾は福建省一帯の文化の影響を強く受けているのだが、緯度的にこの辺りも福建文化の影響を受けていてもおかしくない。また、赣州、福建、台湾ともに客家の居住地であるので、移民である彼らが移住とともに共通の文化をもたらした可能性も高い。

▲廃墟マニアにはたまらない?ディープな空間も

▲赣州では未だにバイクや三輪車が主役でした

旧市街にいいレストランが無かったので、タクシーで駅に戻ることにした。すると車内から、「宁都土菜馆」と書かれた食堂が何件か目に留まった。ここで長らく中国を旅してきた僕の勘が働いた。この宁都土菜馆が、地場料理を出す食堂なのではないか・・・。その勘は見事に的中した。百度で調べてみると、「宁都」とは赣州市北部の県で、どうやら客家が人口の98%を占めているらしい。そこの「土菜」、ようは地場料理なのだから、宁都土菜馆に行けば間違い無いだろう。駅周辺にはないだろうかと調べてみると、どうやら駅の向かいに一件あるようだ。

駅前の宁都土菜馆はいかにも中国の大衆食堂という雰囲気だった。店に入ると、威勢のいいおばちゃんが注文を取りに来た。赣州おすすめのメニューはどれかと聞くと、小炒魚を食べれば間違いないという。なので僕は小炒魚とライスを注文した。

▲ごはん大盛りの小炒魚。これで28元

10分ほどして、小炒魚が運ばれてきた。まず驚いたのが、小炒魚よりもライスの量だった。1.5合くらいのご飯が、ボールにどっさり盛ってあった。食べ放題なのは嬉しいが、恐らく食べきれないであろう。

▲味よし、彩よしの最高の一品でした

小炒魚は彩りのいい料理だった。ライギョのような骨格の淡水魚が、セロリやシシトウ、トウガラシと共に甘辛く炒めてある。日本人にはやや辛すぎるかもしれないが、淡水魚の臭みは気にならず、味も最高によかった。ご飯との相性も抜群で、ボールに山ほど盛ってあったライスがいつの間にか無くなっていた。

つづく

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この記事を書いた人

『TRANS JOURNAL』編集者なり。神奈川県出身。京都外国語大学外国語学部卒。在学中に上海師範大学に留学。卒業後は製紙会社などに勤務。翻訳もたまに。ここでは興味の赴くままに、イギリス帝国や中国に関する記事を執筆。